『ダイバーズ!』 第十八章 【探り】 ②

寺井が、ぬぼっと立ち上がった。
「ああ、報告しよう。ジャイアント・アーントだが、沢田たちがやられたのと同じ中国ローン・ウー社製の同型機だ。やはりIDは消されていた。反射速度から計算した同期率は今回も百パーセントだった」
 後藤が眉間にしわを寄せた。
「おれたちは八人を未帰還にしちまったってことか」
「そうなるわね。前回は十六体出してきて、圧倒的な戦力差で未帰還はゼロ。今回の八体は一見、戦力ダウンのように見えるけど、正規部隊相手なら一体か二体で充分なことは前回の戦闘でわかったはず。なぜ八体も出したのかしら」

黒木冴子の問いかけに後藤が答えた。
「まあ、たしかにそうだな。だが、念には念を入れたってことじゃないのか」
「そんな無策家な相手じゃないわ。九ケ所同時テロでの戦い方を見たでしょ。最小の投資で最大の成果を上げる。そういう相手よ。すべてのことには計算しつくした理由がちゃんとあるわ」
「理由? 一体、二体出すのと、八体出すのと何が違うって言うんだ。それだけ余裕があるってだけじゃねぇのか」
「沢田たちのパーティーが一体も倒せなかったことから、正規部隊一部隊では一体のジャイアント・アーントでも手に余る。でも、二部隊かければ一体なら倒せる可能性はわからない。二体だけ出したのでは、正規部隊が総力戦を挑んでくる可能性があるわ。でも、八体も出されたんじゃ、正規部隊が総がかりでも全滅させられるのは明白。四体や六体なら判断が分かれる可能性があるけど、八体なら正規部隊は確実に出撃しない」
「正規部隊が出ないったって、日本政府がテロを放置するわけはねぇだろう」

黒木冴子がくるりと体を回して後藤の方を向いた。
「そこよ。正規部隊が出てくることを想定していたら、一体か二体だけ出して、正規部隊をおびき出すはず。正規部隊が総力戦を挑んできたところで殲滅すれば、日本から戦力を奪い去ることができるわ。でも、やつらは最初から正規部隊が出て行けないような数を出してきた」
「日本の次の手を探り出そうとしたってことか」
「いや、奴らは知っているのよ。わたしたちの存在を」

後藤が眉間にしわを寄せていった。
「ん、じゃぁ、おれたちはおびき出されたってことじゃねぇか。今度はおれたちを狙ってるって言うのか」

黒木冴子が小さくうなづいた。
「そう考えて間違いないわ」
「でも、二十四体の追加転送ができたんだろ。おれたちを潰す気なら、なんでそいつらを送りこんでこなかったんだ」
「まだ、やつらがわたしたちの力をつかみ切っていないってことよ。勝算が無ければ戦力の追加なんかしないわ。無駄に消耗するだけよ。長谷川、そっちはどう?」
「ログの解析にはまだ時間がかかるから、現状とわかったことだけを説明させてもらおう。まず東亜信金のサーバーだが、見ての通り、無事だ。結局、予備システムに切り替えることなく稼働を続けている。信金は、おれたちが動いたことなど知らんから、警察か何かがサイバー攻撃に対処してくれたとしか思ってねぇだろう。金融庁には早川総理から調査不要の指示が出ている。局長の働きかけだ。気になるのは、あのチャネルの動きだ。隊長たちが降りたとたんに、すごい勢いでデータが吸い上げ方向に動き出した。アーントを送り込む気なら、掃き出し方向にデータを送っておいて、一気にアーントを乗せるはずなんだが」
「つまり、もともと三十二体分のチャネルというわけじゃなくて、二十四体分は他の機能に使っていたってことね」
 後藤が怪訝そうな顔を黒木冴子に向けた。
「他の機能? 兵隊を見殺しにして、奴らは何をやってやがったんだ?」
「観察よ」
「観察だぁ? なにを観察してやがったんだ」
「おそらくは、戦力。八体を犠牲にして、わたしたちの戦闘能力を観察してたのよ。最初から今日の戦闘は様子見だったってこと。追加のアーントを送る気なんかなかったんだわ。ジャイアント・アーント二十四体分の情報回線を使っていたとなれば、かなり詳細なデータを手にしたはずよ」

後藤が舌打ちをした音が聞こえた。
「まずいな。手の内を見せちまったぜ。フォーメーションG2の指示だったから、おれはやつらを押さえるだけで、ぶっ壊すのは全部、隊長に任せたけどな」
「気にすることはないわ。力を出し惜しんで、身を亡ぼすのは愚か者がすることよ」
「ま、そりゃ、そうか」
 押さえるだけ。後藤はあれで力を出し切っていないと言っている。後藤たちの戦力が計り知れなかった。

「今、言えることは、次があるということよ。戦力データを集めていたということは、また、わたしたちとぶつかることを想定しているからだわ。次はどういう出方をしてくるか見ものね」
 黒木冴子がスクリーンの中で動くアーントを見つめていた。