『ダイバーズ!』 第二十章 【未登録ナンバー】 ②

「これです。この車です」
「この角度だとナンバーが見えないな。ちょっと待ってくれ。別の衛星を探してみる」。画像がめまぐるしく切り替わった。「こいつなら、どうかな」
 静止した画像には、斜め前からセダンが映っていた。画像が拡大された。ナンバーが鮮明に読み取れた。
「すごいですね。こんな細部まで鮮明に見えるなんて」
「こいつは米軍の衛星監視システムだ。十六日前までの画像なら、コーヒーの湯気まで見えるぜ」
 スクリーンに『未登録』の赤い文字が点滅した。
「確かに、ナンバーを調べると未登録ってでるな」
 黒木冴子が顔を斜めに向けた。
「また、未登録ナンバーか」
 スクリーンに沢田の姿が映った。沢田が通り過ぎて、二、三分すると黒のセダンが発進して、消え去った。
 寺井がうなった。
「こいつはたしかに、沢田を監視してるようだな」

 長谷川がスクリーンに右手をかざした。
「ちょっと待ってくれ。気になることがある」スクリーンの画面が切り替わり、赤と緑の二本のグラフが映し出された。「赤いグラフは本物のナンバーの文字に使われる銅フタロシアニンって青系顔料の反射スペクトルだ。緑のグラフは、防衛省の病院から安西たち三人の体を持ち去った車に使われてたナンバーの塗料だ。見てわかる通り、本物の塗料で見られるこの紫外領域三百三十ナノメーター付近の落ち込みが偽造ナンバーにはねぇんだ。おそらく普通のペンキを使ってるんだろう。で、この車のナンバーも見てみよう。まず、太陽光の分を補正する。次にこの部分の色を分解するとこうなる」赤と緑の上に、青のグラフが現れた。「最後に、グラフの高さを正規化する」青のグラフの高さが下がっていく。青のグラフが緑のグラフに重なって停止した。「ぴったりだな。この車のナンバーは、病院から安西たち三人を連れ出した車と同じ塗料で作られた偽造ナンバーだ」
「なんであいつら、僕を監視してるんでしょう。僕がパーティーの生き残りだから、殺そうって言うんでしょうか? それとも、僕の体も手に入れようって言うんでしょうか?」
「心配しなくていいわ。殺したり、連れ去ったりする気なら、何度も見逃したりはしない。奴らがおまえに襲い掛からないのは、まだおまえには襲う価値がないってことよ」
「まだってどういうことですか」
「それはいずれわかるわ。確かなことは、奴らは何かを待っているということ。そして、その何かがおまえに起これば、奴らはわかるということよ」
「いずれって。それまで、ずっと監視されてるんじゃ生きた心地がしませんよ」
 後藤が吐き捨てた。
「もう出てきやしねぇよ」
「出てこないって、なんでそんなことがわかるんですか」
「うるせぇな」
 そう言うと後藤はコックピットから出ていった。
「長谷川さん、なんで後藤さんは、もう出てこないと言い切ったんですか」
「さぁな、あいつなりの勘でもあったんじゃないのか。おい、寺井、行くぞ」
 長谷川の態度が空々しくなり、寺井をつれて会議室から出ていった。