『ダイバーズ!』 第二十五章 【暴力と血と】 ②

 地下三階でエレベーターを降りると、広い駐車場に出た。コンクリートの壁に掛けられた案内図でD八を探した。

「こっちだ! 早くしろ!」

 振り向くと、グレーのセダンから後藤が顔を出して手を振っていた。

 助手席のドアを開けて乗り込んだ。

「すみません。端末の調子が悪くて、作戦説明のとき回線に入れませんでした。内容を教えてください」

「黙ってろ」

 タイヤを鳴らして急発進した。

 

 桜田通りから首都高速に乗る。夜の高速は車のテールランプで溢れていた。どころどころで渋滞にぶつかった。快適に流れるタウンの交通とはかけ離れた不快感。実体社会の経済が低迷しているせいで公共設備に国の投資が回っていない。貧困層の救済のために国の資金が湯水のように食われているせいだ。根底にあるのは選挙戦だ。貧困層は税収源にはならないが、選挙の時には大票田になる。貧困層の救済を公約に掲げない限り選挙で勝利は得られない。

 後藤が、いかつい顔を彫刻のように固めたままハンドルを握っている。車内には重い空気が充満していた。聞きのがした作戦内容を知りたかったが、後藤が答えるとは思えない。後藤がどこに向かっているのかはわからなかったが、車の流れに乗ったままでいるところを見ると、緊急事態が発生しているというわけではないらしい。沢田だけが状況を理解していない。

 耳のインカムから黒木冴子の声が流れてきた。

「現場についたら、菊池と原田は周囲を固めろ。後藤と沢田は一階へ突入しろ」

 固まっていた後藤の口が柔らかさを取り戻したように動き出した。

「隊長、一階への突入経路を指示してくれ」

「心配しなくていいわ。一階は正面玄関しか入り口はない」

「正面玄関だけって、なんだ、その違法建築は」

「窓も勝手口もあるわよ。ただ内側から物を置かれて通れないようにされてるだけ。へたに開けようとすれば、連中がたかってくるわよ」

「そういうことかい。じゃぁ、堂々と正面玄関から乗り込ませてもらうぜ。沢田、拳銃に弾を込めておけよ」

「後藤さん、銃を撃つつもりですか」

「ふざけるなよ。てめぇ、また見てるだけのつもりか」

「銃なんか持って、いったい、どこへ行くんですか」

「隊長、やっぱり我慢ならねぇ。おれはこんな極楽トンボとは口もききたくねぇ。こいつには隊長が直接指示してくれ」

「仕方ないわね。沢田、現場についたら指示をする。今度は現実空間での戦闘を経験してもらうわ。銃には弾を装てんしておけ」

 後藤がハンドルを切った。