無給医局員と血流の自己調節

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成績が上がらなかった中学時代。1学年150人で、年度初めの順番は……。中学1年 120番 中学2年 110番 中学3年 100番 高校1年 90番 成績がビューンと上がらないのはなぜか。生活リズムが悪そうだ……。定期試験前1週間→深夜の勉強→1日7時間。終わって2週間→ぐったり→1日1時間。 そこで、試験がない月も1日3時間、試験が終わった後も1日3時間に変更。すると、模試の成績がニョキニョキ上昇したではありませんか。というわけで、「血流の定常性は大事」というお話。

生理的状態 におけ る腎血流量 は, 腎組織100
9あ た り約400~500ml/分 で, 左右 の腎での全
血流量 は, 心送血量の1/4~1/5に 相 当す る.腎
重量 は左右合計 して体重の0.4~0.5%程 度 に相
当するから, これか らみて も, いかに多 くの血
液 が腎に流れ てい るかがわか る.
腎内での血流分布は一様 ではな く, 全腎血流
量 の約90%は 腎皮質を流れ, 残 り10%た らずの
量 が髄質 を流れ る.と くに髄質 内層 の血流量は
少 な く, 全腎血流量の1~2%程 度 に 過 ぎ な
い.こ のよ うに, 腎皮質, 髄質外層, 髄質 内層
で, 血流分布が違 うのみ ならず, 同 じ皮質 のな
か で も, 表層 と深部層で血流分布が異 なること
が, 最近知 られて きた.
腎血流量を調節 している ものは, 腎神経, 体
液成分 または化学的成分, お よび 自己調節機序
と考 えられ る.以 下 自己調節 に つ い て 解説す
る.
1. 腎 の 自 已 調 節現 象
自己調節 (autoregulation) とは, 広い意味で
は"臓 器が, その必要に応 じて, 血流量を調節
す る"こ とであるが, 狭義には, "動 脈圧 の変
化にかかわ らず, 臓器内に存在す るあ る種の機
構に よ り, 血流量が一定 に維持 され る傾向があ
る"と い うことを意味 してい る1). 腎 の 自己調
節 も, その意 味す るところは狭 義であ る.
腎におけ る腎動脈圧 と腎血流量, 糸球体炉過
値 の関係をみ ると, 図1に 示す ように, 腎動脈
圧が ある範囲(大 体70~200mmHg)内 にあれ
ば, 動脈圧 の増加 また は減少 にかかわ らず, 腎
血流量 のみな らず糸球体炉過値 もほぼ一定に維
持 され る.こ れが腎 の自己調節現象であ る.
すでに 述べ た ように, 全 腎血流量 の90%前
後は皮質血流量であ るか ら, 全腎血流にみ られ
る自己調節現象は, 皮質血流の 自己調節現象を
表現 してい ることにな るが, 他方, 髄質血流に
自己調節現象がみ られ るか否かについては異論
があ る3)~6). 糸球体炉過値 についてみて も, 皮
質表層の単一 ネ フロン (corticalnephron) の糸
球体炉過値 には 自己調節現象がみ られ るが, 皮
質深層(労 髄質部)か ら 出 る 単一 ネ フ ロ ン
(juxtamedullarynephron) の糸球体 炉過に 自己
調節がみ られ るか否か明 らかでない7)8).
自己調節現象がみ られ る腎動脈 圧範 囲は, 腎
血流量についてみ ると, 70~200mmHgの 範 囲
であ るが, 糸球 体炉過値 に 自己調節がみられ る
圧範 囲は これ と多少異な る こ と が知 られ てい
る9).
図1腎 の自己調 節現象
*東 京大学医学部第一 内科
-33-
3:910 血 液 と 脈 管 第3巻 第8号
腎の 自己調節現象 は, ヒ ト, イ ヌ, ウサ ギ,
ラ ッ トな どの哺乳動物 には よく認 められ るが,
Ringer液 で灌流 した ガマ腎 ではみ られ ない とい
われている10).
II. 腎 の 自 己調 節 機 序
腎の 自己調節現象 は, 正常腎 のみ ならず, 摘
出腎を人工灌流液で灌流す る場合 のよ うに, 腎
外から神経性, 体液性影響 を うけ ていない条件
下 で もみ られ る. この ことは, 腎内 には, 70~
200mmHgの 腎動脈圧範囲内では, 動脈圧 の変
動 にかかわ らず, 腎血流量 を一定 に維持す る機
構が存在す ることを意味 してい る.
一般 に流体力学的に血流量 と血圧 の関係を考
える とき, 次 のPoiseuilleの 式が用い られ る.
F=R4(PA-Pv)/8Ln
(こ こで, F:流 量, R:管 の半 径, PA-Pv:
管 のA, V2点 間 の圧 差, L:A, V2点 間 の 管
の長 さ, η: 灌 流 液 の粘 性)
Poiseuille の 式 は, そ の ま ま の形 で は, "nonNewtonianHuid" で あ る血 液 が, 弾 性 管 で あ る
血 管 内 を 脈 動 性 に 流 れ る と きに は 厳 密 に は 応 用
され ず, 補 正 項 を 必 要 とす る. しか し理 解 を 容
易 に す るた め, Poiseuille の式 を, そ の ま まの 形
で, 腎 循 環 の 自己 調 節 現 象 に 適 用 してみ る. い
ま, 血 管 半 径(R), 血 液 粘性(η), 血 管 の 長 さ
(L)が 変化 し な い 場 合, す な わ ち, 血 管 抵 抗
(Pa-Pv/F)が 変わ らない ときは, 腎血流
量(F)は, 腎 動 静 脈 圧 差(PA-Pv)に 比 例 し
て変 化 す る. と ころ が 腎 で は, す で に 述 べ た よ
うに, 腎 動 静 脈 圧 差 が70~180mmHgの 範 囲 内
で あれ ば, 腎 血 流 量 は 動 静 脈圧 差 の 増 減 に か
か わ らず, あ ま り変 化 しな い. この よ うな 自己
調節 現 象 が お こるた め には, 血 液 粘性(η), 血
管半 径(R)が 変 わ っ て, 血管 抵 抗 を変 化 させ
な けれ ば な ら ない. こ の よ うな観 点 か ら, 腎 の
自己調 節 機 序 につ い て の従 来 の 仮説 を分 類 す る
と, 表1に 示 す よ うに な る. この表 を参 照 に し
な が ら, これ ら の仮 説 の主 な る もの を歴 史 的 に
述 べ てみ よ う.
腎循 環 の 自己 調 節 現 象 を 最初 に記 載 した のは
Rein(1931)11)で あ る. そ の後, 多 くの報 告 が
な され, また そ の機 序 に つ い て も表1の よ うに
多 くの仮 説 が 報 告 され た が, そ の多 くが 必 ず し
も万 人 の肯 定 す る も ので は な い.
Pageら(1953)12)は, 「腎 内 の autonomicganglia を介 す る intrarenalrenex が 自己 調 節 と関
係が あ る(intrarenalreHextheory)」 と考 え た
が, こ の 仮 説 は, 「腎 内 の 神 経 活 動 を 薬 理学 的
に ブ ロ ック してお い て も, 自己 調 節 現 象 は 消失
しない 」 とい う Waugh ら の実 験13)か ら否定 さ
れ てい る.
Selkurt(1955)14)は, 自己 調 節 を 反 応 性充 血
(reactivehyperemia)と 同 じ く代 謝 性 血管 拡 張
物 質 に よ る も の と 考 え, 「腎 内 の血管 拡 張性 代
謝 産 物 の 増減 が 自己 調節 と関 係 が あ る (reactive
hyperemiatheory また は metabolictheory)」 と
報 告 した.し か し腎 に おけ る反 応 性 充 血 の 出現
には, 血 管 拡 張 性 代謝 産 物 の遊 出 の み な らず,
Bayliss myogenic mechanism (後 述)が 主 因 とな
って お り, 自己 調 節 と反 応 性 充 血 機序 に共 通 し
てい る点 は, Bayliss myogenic mechanism で あ
る よ うに思 わ れ る14)15).
表1
-34-
昭 和47年8月 3:911
つ い で, Papenheimer ら16)(1956)はcell
separation theoryを 発 表 した.そ の 要 旨は, 「腎
内 で, 血 液 が小 葉 間 動 脈 か ら輸 入 細 動 脈 に 入 る
と き, "plasma skimming"が お こ り, 赤 血 球 と
血 漿 が 分 離 す るが, そ の 分 離 の 程 度 は, 腎 動脈
圧 が 高 い ほ ど 強 い. 小 葉 間 動 脈 内 で, こ の
“plasma skimming” が 繰 り返 され る と, 皮 質表
層 で の血 液 〔Ht〕値 は, 皮 質 深 層 で の 〔Ht〕値
に 比 し高 く な る.輸 入 細 動 脈 か ら糸 球 体 毛細
管, 輸 出 細動 脈 を通 過 した血 液 が, 尿 細 管 周 囲
毛 細 管 に 入 る さい, "plasma skimming"が 再 び
お こ り, 血 漿 成 分 の多 い 血 液 は 尿 細 管 周 囲 毛細
管 を 通 り, 赤 血 球 成 分 の 多 い 血 液 は"redcell
shunt"を 通 る」 と い うこ とで あ る. も し腎 動脈
圧 が 上 昇 す れ ば, そ れ だ け"plasma skimming"
の程 度 も強 く, 腎皮 質 表 層 の血 液 〔Ht〕値 や血
液 粘 性 が 増 し, 血 管 抵 抗 が 上 昇 す る ので, 腎 動
脈 圧 の上 昇 に か か わ らず 腎 血 流 量 は そ れ ほ ど上
昇 しない とい うよ うに, 腎 の 自己 調 節 現 象 を こ
の仮 説 か ら説 明 す る こと もで き る. しか し, (1)
この仮 説 で 仮 定 して い る よ うな"red cell shunt"
は解 剖 学 的 に は 存 在 しな い. (2)腎 皮 質 で 赤 血
球 と血 漿 の分 離 が お こっ て い る証 拠 は な く17)
18), (3)赤 血 球 を含 ま ない 人 工 灌 流 液 で腎 を 灌
流 して も, 自己 調 節現 象 が み られ る13)19)20), な
どの反 論 が で て, 現 在cell separation theoryは
一般 に是 認 され てい な い .
Scher(1959~1962)21), Hinshawら(1959~
1961)22)~25)は, 「腎 動 脈 圧 が 上 昇 す る と, 毛 細 管
か らの炉 過 が 増 し, 腎 内組 織 液 の 貯 留 を 促 進
し, 組 織 圧 や ボ ウ マ ン嚢 内 圧 が 高 ま る結果, 毛
細 管 や 静脈 な どの"low pressure vessel"が 圧 迫
され, そ の血 管 抵 抗 が 増 す の で, 腎 血 流 量 は腎
動 脈 圧 上 昇 に伴 っ て増 加 しな い 」 とい うよ うに
自己 調節 現 象 を説 明 した.こ れ がtissue pressure
theory(ま た はmtration theory)と 呼 ば れ る仮
説 で あ る. しか し, (1)腎 の 自己 調 節 の程 度 と組
織 圧 上 昇 の 問 に は 相 関 は 認 め ら れ な い26), (2)
組 織 圧 上 昇 に 関 係す る と考 え られ る腎 被 膜 を 剥
離 して も, 自己 調 節 現 象 は 消 失 しない26), (3)
papaverine19)27)~29), acetylcholine30), KCN31)を
あ らか じめ 腎 動脈 内 に注 入 した 腎, また は 死亡
腎 で は, 自己 調 節 現 象 は 消 失 す る, (4)腎 動 脈
主 分 岐 枝 を 別 々に 灌 流 す る と き, 灌流 圧 上 昇 に
伴 う血 管 抵 抗 の 上 昇 は, 灌流 圧 を 上 昇 させ た動
脈 枝 に 限 っ てみ られ, 他 の 動 脈 枝 に は み られ な
い32), な ど の所 見 は, tissue pressure theoryか
らは説 明 で ぎず, この 仮 説 も一 般 に は 承 認 され
てい な い.
こ の よ うに, 腎 の 自己 調 節 機 序 に つ い て の仮
説 の多 くは 否 定 され てい るが, 現 在 もっ とも多
くの人 の支 持 を うけ て い る も の は, Sempleら
(1959)33), Thurau ら(1959~1962)19)27)34),
Waugh ら(1960)13)28)に よ っ て 発 表 さ れ た
myogenic theory と, Thurau ら(1964~1967)35)
~39)の tubulo-vascular feedback theory で あ る.
以下, この2つ の 仮説 に つ い て, や や 詳 し く述
べ る.
1, myogenictheory
腎 の 自己 調 節 現 象 が み られ る圧 範 囲(70~200
mmHg)内 で, 腎動 脈 圧 を 急 激 に 上 昇 させ, そ
の レベ ル に 維 持 して い る と, 腎 血 流 量 は, 図2
に 示 す よ うに, 一 過 性 の"overshoot"を 示 した
の ち, リズ ミカル な 変 動 を しな が ら動脈 圧 上 昇
前 の血 流 量 レベル 近 くまで 戻 る.ま た 逆 に, 腎
動 脈 圧 を急 激 に 低 下 させ る と, 一過 性 の急 激 な
血 流 量 減 少 を示 した 後, 圧 低 下 前 の レベ ル に戻
る.し か し, あ ら か じ めpapaverine, chloral
hydrateで 腎 血管 の 平滑 筋 を弛 緩 させ て お く と,
この よ うな圧 の増 減 に対 す る血 管 反 応 は み られ
図2腎 動 脈 圧(PA)上 昇 時 の腎 血 流 量(RBF)
お よ び 腎 静 脈 圧(PV)の 変 化(Semple
ら33)よ り)
-35-
3:912 血 液 と 脈 管 第3巻 第8号
ず, また 自己調節現象 に 特有 な 圧-流 量 関係
(図1)も 消失 す る. また腎循環の 自己調節現
象がみ られ る場合には, 糸球体炉過値 に も自己
調節現象が認め られ, 糸球体毛細 管圧40), 近位
尿細管圧, 尿細管周囲毛細 管圧 も27), 腎動脈圧
の増減 にかかわ らず, 一定 に維持 さ れ る が,
papaverineな どに よって血管平滑筋を弛緩 させ
てお くと, 腎血 流量 のみならず 糸球体炉過値 の
自己調節現象 も消失 し, 腎血流量, 糸球体炉過
値, 近位尿細管圧, 尿細管周 囲毛細管圧 は, 腎
動脈圧 に比例 して変動す る27).
以上から考 える と, 腎 の 自己調節現象 は, 血
管 内圧 または血管内外圧差(transmural pressure
difference)の 増加(ま たは減 少)に 対 し, 主 と
して, 輸入細動脈 あた りの平滑 筋が能動的 な収
縮(ま たは弛緩)を お こす結果 お こる と考 え ら
れ る. このよ うな, 血管内圧(ま た は血管内外
圧差)の 変動に対す る能動的 な血 管 反 応 は,
1902年, Bayliss41)によ り示 された と こ ろ で あ
り, また, 細動脈は, そ の内圧 の増加, または
伸展に よ り, 血管壁の張力を増す と, 能動的 に,
律動的に収縮す ることも知 られ てい る42)43).か
くして, myogenic theoryで は, 腎循環 の 自己
調節 を次の よ うに説明す る:「腎動脈 圧 が上 昇
(ま たは下降)す る と, 輸入細 動 脈 の 内 圧 や
transmural pressureも 上 昇(ま たは下降)し て
輸入細動脈 は受 動的 に拡張(ま たは収縮)す る
ので, 輸入細動脈 の平滑筋の張力は増加(ま た
は減少)す るが, この張 力の増加(ま たは減少)
に対 して, 細動脈平 滑筋が能動的 に収縮(ま た
は拡張)す る結果, 腎血流量 は, 腎動脈圧 の増
減にかかわらず, あ ま り変 化 し な い. 70~80
mmHg以 下の腎動脈 圧領域で 自己調節現象 が
み られない(図1)の は, 腎血管にmyogenic
toneが 消失 しているためであ る」.
もし以上 の説 明が正 しい とす ると, (1)腎動脈
圧70~80mmHg以 下では, 腎血管は完全に弛
緩 してい るので, 血管拡張物質 を腎動脈内に注
入 して も, それ以上血管拡張はお こらない筈で
あ り, また(2)自己調節現象がお こる腎動脈 圧領
域(70~200mmHg)で も, 血管内圧 を 変化 さ
せ ず, 組織圧 の み を あ げ て, 血管内外圧差
(transmural pressure)を 下 げ る とき には, 腎 血
管拡 張 が お こ る筈 で あ る. 事実, (1)腎 動 脈 圧 を
70~80mmHg以 下 に 維 持 し て お く と, papaverine, acetylcholineの 腎 動脈 内注 入 に よ っ ては
腎血 流 量 増 加 は み られ な い. (2)尿 管 圧 を上 昇 さ
せ て腎 組 織 圧 を上 げ, 腎 血 管 内外 圧 差 を下 げ る
と, 腎 血 流 量 は 不 変 か 増 加 し(図3), この 際
動 脈 側 血 管 抵 抗 は 減 少 す る28)35)44)~47). また,
(3)尿管 圧 上 昇 時 に は, papaverineの 腎 血 流 量 増
加 の作 用 は 弱 い(図3)47)48). (4)尿 管 圧 上 昇 時
に は 自己 調 節 現 象 は み られ な い28)44).
以 上 述 べ た 論 拠 か ら, 現 在 の と ころ, 主 な る
自己調 節 機 序 は, 血 管 内 外圧 差 に対 す る輸 入 細
動 脈 の能 動 的 な"myogenic response"す な わ ち
Bayliss myogenic mechanismで あ る と考 え るの
が, も っ と も妥 当 の よ うに考 え ら れ る. しか
し, これ で 自己 調 節 現 象 のす べ てが 説 明 で きた
わ け で は な い. 自己 調節 現 象 が, 他 の 臓 器 循環
に比 し, 腎 循環 で も っ と も典 型 的 に 認 め られ る
とい う事 実 を, Bayliss myogenic mechanismか
らだ け で説 明 す るの はむ ず か しい よ うに 思 われ
る. また, 血 管 内圧 また は血 管 内 外圧 差 の変 動
を感知 す るreceptorが 輸 入 細動 脈 壁 に 存 在 す
るか 否 か に つ い て も, 労 糸 球 体 細 胞 を そ の
receptorと 考 え る人13)49)も い るが, そ の真 偽 の
ほ どはわ か ら ない.
2, tubulo-vascular feedback mechanism
腎 血管 は, "栄養 血管"と し て よ り, "機 能 血
管"と して の意 義 が 大 き く, 腎 の機 能 と密 接 な
関 係 を もつ こ とは よ く知 られ て い る. した が っ
て, 腎 機 能 の 変 動 が 腎 の 自己調 節 現 象 に 何 らか
の関 係 を も って い る可 能 性 が あ る ことは 十 分 考
え られ る.
Thurau35)~39)は, (1)レ ニ ンを分 泌 す る 労 糸 球
体 細 胞 は 輸 入 細 動脈 壁 に あ り, macula densaと
呼 ば れ て い る遠 位 尿 細管 起 始 部 の細 胞 と, 労 糸
球 体 細 胞 は, 哺乳 動 物 で は, 解 剖 学 的 に 相接 し
て存 在 す る(図4). (2)diamox, hydrochlorothiazideや 水 銀 利 尿 剤 に よる利 尿 時, 副 腎 摘 除 時,
腎 虚 血後 の尿 細 管 障 害 時 には, 遠 位 尿 細管 起 始
部 の尿 細 管 液Na濃 度 の増 加 が み られ る と同時
に, 腎 血 管 抵 抗 の 上 昇, 糸 球 体 炉 過値 の減 少が お
-36-
昭 和47年8月 319:3
こ る, (3)mannitolや 尿 素 利 尿 時 で は, 遠 位 尿 細管
起 始部 の管 液Na+濃 度 が減 少 し, 腎 血 管 は 拡 張
す る, (4)普 通, 遠 位 尿 細 管 起 始部 の 尿 細 管 液 の
滲透 圧 やNa+濃 度 は, 血 漿 に比 し低 い が, 低 食
塩 食 で 飼育 して労 糸 球 体 細 胞 内 の レニ ン含量 を
増 した ラ ッ トで, そ の 遠位 尿 細 管 起 始 部 を血 漿
と等 張 のNaCl, NaBr液 で灌 流 す る と, 近 位 曲
尿 細 管 の直 径 は 急 激 に減 少す る(こ の こ とは糸
球 体 炉 過 値 の減 少 を意 味す る)が, 血 漿 と等 張
のmannitol, choline chloride液 で 灌 流 して も, 近
位 尿 細 管 の直 径 は 変化 しな い. (5)遠 位 尿 細 管 腔
液 のNa濃 度 の 変化 に対 す る近 位 尿 細 管 径 の変
化 は, 高 食 塩 食 で 飼育 して労 糸 球 体 細 胞 内 の レ
ニ ン含 量 を 減 少 させ た ラ ッ トで は 認 め られ な い
か, また は弱 い, な どの実 験 結 果 か ら, 「遠 位 尿
細 管 起 始 部 の 尿 細 管液Na+濃 度 がmacula densa
を 介 して労 糸球 体 細 胞 か ら のrenin分 泌, 腎 内
で のangiotensin産 生 を調 節 し, さ ら に, この
renin angiotensin系 を 介 して 腎 血 流 量 や, 糸球
体 炉 過値 が 調節 され る」 とい うtubulo-vascular
feedback mechanismを 仮 定 し た. そ し て, そ
の 仮説 か ら, 自己 調 節 機序 を 次 の よ うに説 明 し
た:「 腎 動 脈 圧 が上 昇(ま た は 下 降)す る と,
そ れ に伴 い 遠 位 尿 細 管 起 始 部 の 管 内 液Na+濃
度 が 増 加(ま た は 減 少)し, macula densaに 接 す
る労 糸球 体 細 胞 か らreninの 分 泌 を 促 進(ま た
は 抑制)し, angiotensinの 生 産 を 増 加(ま た
は減 少)さ せ, そ のangiotensinが 輸 入 細 動 脈
に働いて血 管収 縮(ま たは拡張)を お こさせ る
結果, 腎血流量 や糸球 体炉過値 は, 腎動脈圧上
昇にかかわ らず, ほ とん ど変化 しない」.
しか し, (1)遠位尿細管起始部 の"Na+=濃 度"が
労 糸球体細胞 か らのrenin分 泌を促 進する とい
う確証 は乏 しく50), (2)腎血流量や糸球体炉過値
の 自己調節現象 は, angiotensinの 腎動脈注入時
で もお こりうる し51)~53), 高食 塩食飼育 でrenin
含量が少 な くなった イ ヌで も認め られ53), さ ら
にrenin生 産量は 自己調節出現 と相 関 しない52),
(3)hydrochlorothiazide利 尿時, 遠位尿細管起始
部 のNa+濃 度の上昇 とともに糸球体炉過値 は減
少す るが, この糸球体炉過値 の減少は, 近 位尿
細管内圧が利尿時に上昇 し, 有効糸球体炉過圧
図3A: 尿 管閉 塞(stop How)時 の尿 管圧(UP), 腎 動 脈圧(AP), 腎 血流 量(RBF)の 変 化, B: 反 対
側 尿 管 閉塞 の被 検 側 の影 響(ほ と ん ど影 響 な い). C: papavcrine静 注 の腎 動 脈 圧, 腎 血 流 量 へ の 影
響. D: 尿 管 閉 塞 時, papaverineの 腎 動 脈圧, 血 流 量 に 対 す る影響(Yoshitoshiら47)よ り)
A B C D
図4労 糸 球 体 細 胞 とmacula densa細 胞 の解 剖
学 的 関 係
-37
3:914 血 液 と 脈 管 第3巻 第8号
が 低 下 した 結 果 で あ る と 解 釈 で き54), ま た,
furosemide利 尿 時 に は, 遠 位 尿 細 管 起 始 部 の
Na+濃 度 が上 昇す る に もかか わ らず, 糸 球 体 炉
過 値 は ほ とん ど変化 しな い38), な どの報 告 もあ
り, な お 多 くの検 討 が な され な い 限 り, Thurau
の仮 説 も多 くの 承認 を うけ る こ とは で き な い.
Morgan55)は, Thurauの 成 績 を追 試 し, 遠 位 尿
細 管 起 始部 を灌流 す る液 のNa組 成, 流 速 を変
化 させ て も, 同一 ネ フ ロ ンの 糸球 体 炉 過 値 は変
化 しな か った と述 べ て い る. また, Schnerman
ら56)は, tubulo-vascular feedback mechanism
で, 労 糸球 体 細 胞 か らのrenin分 泌 を調 節 す る
もの は, 遠 位 尿 細 管 起 始 部 のNa+濃 度 で は な
く, macula densa細 胞 を通 過 す るNa量 で あ る
と考 え て い る.
以 上 の よ う に, Thurauが, 遠 位 尿 細 管 起 始
部 と糸球 体 の 間 に, Na sensitive feedback mechanismを 想定 した の に 対 し, Guytonら57)は
osmotic feedback mechanismを 想 定 し, 遠 位 尿
細 管起 始部 の尿 細管 液 の 滲 透 圧 の 増 減 が, macula densa細 胞 を 介 し て 労 糸球 体 細 胞 にfeedbackさ れ て腎 血 流 量 の 増 減 が お こ る と 考 え る
と, 自己 調節 現象 を巧 み に説 明 で き る とい う.
そ の 傍 証 と して, 高 張 の食 塩 水, mannitol液,
ブ ドウ糖 液 の静 注 に よ り血 液 滲 透 圧 を 高 め る
と, 腎 血 流量 は増 加 し, 自己 調節 現 象 は減 弱す
る とい う成 績 を え た58). し か し, mannitol利
尿 時 に は, 遠 位 尿 細管 起 始 部 の 滲透 圧 は ほ とん
ど変 化 しな い し, 高 張食 塩 水 利 尿 時 に は, 遠 位
尿 細 管 液 の 滲 透 圧 は 減 少 す る こ とが知 られ て お
り, 血 液滲 透 圧 の上 昇 は 必 ず し も遠 位 尿 細管 起
始 部 の 尿 細 管 液 滲 透 圧 の 上 昇 を 伴 うもの で は な
い.ま た, Guytonの 仮 説 で は, 遠 位 尿 細 管起
始 部 の管 腔 液 滲 透 圧 の 上 昇 が 労 糸 球 体 細 胞 を 介
して腎 血 流 量 を増 加 させ る機 序 に つ い て は, 詳
細 に は 触 れ て い な い.
3.そ の 他 の 機 序
一 般 に, 血 液pHやPco2の 変 化, ア デ ニ ン系
核 酸 代 謝 産 物, Krebs cycleの 中 間 代 謝 産 物 は,
腎 血 流 の 局所 的 調 節 に 関 係 す る とい わ れ て い
る. 自己 調 節 現 象 を, 血 中Pco2の 変動61), ア
デ ニ ン系 核 酸 代 謝 産物59)60)と む す び つ け て 説 明
している研究 もあ るが, その詳細 な機序につい
ては知 られ ていない.
また, 自己調節現象時には, 皮質表層 と深層
で, 血流 の再分布がお こる. た とえば, 腎動脈
圧 を低下 させ ると, 皮質表層 の血流量の割合は
減少 し, 深層では増加す るとい う報告がみ られ
る62).
III.自 己調 節 現 象 の 生 理 学 的 意 義
一時, 自己調節現象は生理的現象ではない と
いわれた ことがあ るが63)64), 現在, 多 くの人が
生理的現象 と考えてい る.
腎血流量は, 自己調節 のみな らず, 神経性や体
液性因子に よって調節 されているが, 生理的状
態 で, こ うい った因子が どの ような割合で組合
わ さって腎血流量を調節 しているのか 明 らかで
ない. ただ, 出血性シ ョックなどのよ うに, 神経
性影響が強 い場合65)や, 慢性尿管 閉塞後 の腎14)
には, 自己調節現象はみ られ ない ようであ る.
む す び
現在, 腎 の自己調節現象は, Bayliss myogenic
mechanismや, tubulo-vascular feedback mechanismか ら説明 され る 方向にある. しか し, こ
れら仮説を もって しても, 自己調節現象 のすべ
てを説 明 しつ くす ことはむずか しい ように思わ
れる.

 

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