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『ダイバーズ!』 第二十五章 【暴力と血と】 ③

 新宿で高速をおりると明治通りに入った。先に進むにつれ、建物の灯りが減っていく。車は新大久保へ向かって走っていた。治安の悪いスラム街。タウンの実装後、東京で一番荒廃した地域だ。人通りの無い歩道で、目つきの悪い子供たちが、たむろってドラム缶で火を燃やしている。夜はどこから何が飛んでくるかわからない危険な地域。前を走る菊池たちの車以外に、自動車の姿はない。沢田は肩から下げたホルスターからマグナムを引き抜くと、シリンダーを降り出して中の弾を確かめた。闘うためではない。自分の身を守るためだ。肉食獣の檻に放り込まれたようだった。

「左手に見える二階建てよ」

「あそこだな」

 後藤の目線の先を追った。七階建ての雑居ビルに挟まれた小さな二階建ての建物。コンクリートの打ちっぱなし。正面の窓は曇りガラスになっていた。中からの灯りが、積み上げられた物の影を曇りガラスに黒く映し出していた。入り口は両開きの大きな木製扉になっている。両側のビルはすべて窓のガラスが割られていた。缶スプレーで壁に大きく書かれた黄色い落書き。おそらく両脇のビルには誰もいない。廃墟。ゆっくりと建物の前を通過した。

 信号の手前でUターンすると、建物の向かいで後藤が路肩に車を停めた。菊池たちの車が建物の向こう側に停まっているのが見えた。

「隊長、ついたぜ」

「五分後に突入する。二十三時◯一分〇〇だ。全員、突入の準備に入れ」

 突入。へたをすれば銃撃戦が始まる言葉。傭兵である後藤たちは平気で人を殺すのだろう。だが沢田にとって、どんな大義名分があっても、殺人は殺人だ。人殺しの夫、人殺しの父親、留美と沙紀にまで一生重い十字架を背負わせることになる。たとえ、それが正当防衛であったとしても。

「隊長、沢田です。携帯端末がつながらなくて、作戦説明を聞き損ないました。あの建物がなんであって、何をしようとしているのか説明してください」

「あれは飯島組の事務所よ」

「飯島組? 聞いたことない名前です。ヤクザですか」

「そう、ヤクザよ。もとは大菱組系興仁会の若頭だった飯島が、跡目争いに負けて組を叩きだされた。その飯島が気の荒い連中を集めて作ったのが飯島組だ。まともなやつらだと思うなよ」