『ダイバーズ!』 第二十二章 【クラス・ウィザード】 ③

 ため息が出た。
「やっぱり、あれは脳の増設が必要な武器だったんですね」
「自衛隊に配備されるのは増設が不要になっている。まぁ、増設がいらないってことが正規部隊に配備されることになった理由の一つでもあるんだが。その代り、火力は格段に低い。今日出てきたあのでかいアーントに通用するかどうかも怪しいもんだ。テロリスト共の戦力はとんでもねぇ勢いで強力になってきている。後藤たちクラスの火力を持ってないと、この先はきついと言わざるをえんだろうな」
「いずれ、テロリストも後藤さんたちと同格の武器を持ち出してくるような気がします」
「だから、後藤たちは実験段階の武器を使わなきゃならねえんだよ。負けないためには、いつも武器を最先端のものにしておかなくちゃならねぇ」
「でも、そんな最先端の武器を持ってたんじゃ、狙われるんじゃないですか。殺して増設装置を奪おうと考えるやつは多いでしょう」

 また長谷川が困ったような顔をした。
「おまえは少し勉強した方がいいぞ。増設装置に組み込まれた武器は、どれもプロテクトがかかってる。こいつは十四年ほど前にドイツで開発された有名なプロテクトだが、プログラムが実行ベースでないときは、原理的にそのプログラムはランダムな数列にしか見えないってものだ」
「実行ベースですか」

 長谷川がかなり高等なことを、沢田がわかりやすいように咀嚼してくれているのはわかったが、それでも言葉づらを追うのが精いっぱいで、腹には落ちなかった。
「手っ取り早く言えば、後藤たちの武器の場合。仮想空間で使ってるときだけ実体化するってことだ。現実空間じゃ、なにやっても奪えねぇってことだよ」
「そういうことですか、そうでもなかったら危なっかしくって生活できませんよね」
「いや、未帰還にされる恐れはある。米軍の研究報告書にあるんだが、プログラムが実体化してる仮想空間で抹殺された場合、こっちの肉体が生きてるせいで、仮想空間内の死体はプログラムが解放状態のままになっちまう。死体として存在するのはほんの数分間の間だけだが、この仮想空間の死体からなら武器を奪うことは可能だ。もっとも、後藤や菊池が仮想空間で倒されることはないだろうがな」

 原田のことが気にかかった。ただひとり通常武器を使っていたからだ。
「原田さんは、あの手の武器を使わないんですね」
「原田のは開発がうまくいってない。本当なら、二年前に実戦で使えるプロトタイプができる予定だったんだが、暴発が抑えられないらしい」
「隊長が使ったあのすさまじい威力のやつは何なんですか? 智美が使ってた雷撃と似てるけど、破壊力が全然違います」
「あぁ、あれは、光の矢って呼んじゃいるが、あれの機密は固くって、おれでも出所すらわからねぇ。局長は知ってるようだが、何にも教えちゃくれねぇ」
「戦闘中に、隊長が呪文みたいなのを言っているのが聞こえました。はじめは爆発音で空耳が聞こえたのかと思ったんですけど、たしかに隊長の声でした。長谷川さんには聞こえませんでしたか?」
「あぁ、あれか」
「漆黒の闇だとか、聖なる光だとか。あれは、いったいなんなんですか?」
「呪文だよ。魔女の呪文だ」