新型コロナウイルス(2019-nCoV)感染症への対応について

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(2020年1月28日現在)

1.感染症の専門家として冷静な対応を指導してください。

 情報が限られている中で難しい判断が必要となりますが、信頼できる情報(国別の症例数、死亡数など)を参考に、本ウイルスの感染性、病原性を考えた対応を指導してください。本邦では7例の患者が報告されておりますが、1例を除きいずれも武漢に滞在していた方です(1月28日現在)。また患者の家族、あるいは患者をケアした日本人看護師・医師における二次感染事例も報告されていないため、国内での感染伝播は限定的と考えられます。今後の情報、これまでの先生方のご経験を参考に感染症の専門家としての冷静な対応をお願いします。

2.新型コロナウイルスの特徴は? さらに強毒化する可能性は?

 コロナウイルスは、いわゆる風邪の原因となるウイルスの1つです。本ウイルスに関連して、より病原性の強い重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)や中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)が出現し問題となったことはご承知の通りです。細菌、ウイルスなどの病原体は、外来遺伝子の獲得や突然変異により常に強毒化する可能性が考えられます。今回の新型コロナウイルスは、遺伝学的にSARS-CoVに近縁であることが報告されています。新型コロナウイルスが従来のコロナウイルスに比べて突然変異を起こしやすいという情報はありません。また、今回のアウトブレイク中に変異を起こしてSARS-CoVに近づいているという証拠も現在のところ報告されていません。ただし、今後、ウイルスの病原性や伝播性が変化する可能性は否定できないことから継続した観察が必要です。

3.感染伝播の現状は? 今後の広がりの可能性は?

 武漢市を中心に中国のほとんどの地域から4,500人を超える感染例が報告されています(1月28日現在)。また世界的には、日本を含めて、タイ、香港、マカオ、米国、オーストラリア、シンガポールなど15カ国で感染例が報告されています。これら中国以外での感染報告例のほとんどは中国(多くが武漢市)からの旅行者であり、輸入国における二次感染例の報告はほとんどありません。ただし、それぞれの国で新型コロナウイルス感染症に対する検査がどのように実施されているのか、どのくらいの頻度で行われているのかが不明であり、正確な広がりを推定することが難しい状況にあります。これから数週間に亘り、検査される人数の増加と相まって新型コロナウイルス感染症患者は増加することが予想されます。このとき、感染源不明の二次感染例がどのくらいの頻度で検出されてくるのかは重要な情報となります。二次感染例の推移を参考に、新型コロナウイルスの感染性および今後の広がりを評価していくことが重要となります。

4.死亡数および重症例に関する情報は?

 中国における重症例が1,000例近くと報告され、死亡例も100例を超えたことが報道されています。一方で、中国以外の国において死亡例は報告されていません(1月28日現在)。前述したように、新型コロナウイルスに感染した人の正確な数が不明であることから、その致死率、重症化率を推定することは困難です。重症例・死亡例に関する臨床情報も限られています。死亡例に高齢者が多いとの報告もありますが、基礎疾患や患者背景に関する情報が不足しており、本ウイルス感染症が直接の原因となる重症例・死亡例の割合を正しく評価することが難しい状況です。報告される死亡数だけをみて国民がパニックになることがもっとも危険です。だからといって気を緩めてもいけません。感染症の専門家としての知識と経験を総動員し、冷静に対応することが必要となります。

5.感染対策の基本は? 疑い患者にどのように対応すればよいのか?

 コロナウイルスは原則として飛沫感染により伝播します。現時点では空気感染の可能性はきわめて低いと考えられます。したがって、感染対策は標準予防策に加えて飛沫予防策・接触予防策を徹底することが基本となります。ウイルスで汚染した手指を介して目・口の粘膜から感染が伝播される可能性にも注意しなければなりません。手指衛生の徹底は感染対策の基本中の基本です。患者および医療スタッフが飛沫を直接浴びないように、サージカルマスクやガウンを着用して診療にあたることが重要です。正しいマスクの着脱、適切な手洗いが重要であることは言うまでもありません。また、気管吸引、挿管などのエアロゾル発生のリスクが高い処置を行う場合には、一時的に空気感染のリスクが生じると考えられているため、N95マスクを含めた空気予防策の実施も必要となります。

6.指定感染症に指定された目的は? 注意しなければいけないポイントは?

 1月28日に新型コロナウイルスによる感染症が感染症法の「指定感染症」に指定されることが決まりました。「指定感染症」となることにより、感染症法の規定に応じた対策が取れるようになります。具体的には、新型コロナウイルス患者を医療費の公費負担のもとに隔離することができるようになります。感染症数の把握、制御を行いやすくするための施策であり、実際の政令の施行は2月7日となります。指定感染症になったとしても、我々ができること、しなければいけないことに変わりはありません。上述した飛沫予防策、標準予防策、手洗い・手指衛生の徹底がもっとも重要です。武漢市などの中国からの訪問者で、臨床症状や検査から肺炎が疑われる場合には、直ちに行政機関に報告する必要があります。1月28日現在、国内すべての自治体の指定検査所(地方衛生研究所等)でウイルス検査が可能となっています。

7.新型コロナウイルス感染症および対策に関する重要な情報

1.厚生労働省: 新型コロナウイルスに関するQ&A   https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html

2.国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov.html

3.CDC情報
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-nCoV/guidance-hcp.html

 2020年1月29日


一般社団法人日本感染症学会
理事長 舘田 一博

一般社団法人日本環境感染学会
理事長 吉田 正樹

Source: 日本環境感染学会
新型コロナウイルス(2019-nCoV)感染症への対応について

-日本環境感染学会

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